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村が、彼女を呪う──『ナイトサイレン/呪縛』が描く“現代の魔女狩り”という悪夢

村が、彼女を呪う──『ナイトサイレン/呪縛』が描く“現代の魔女狩り”という悪夢

お知らせ❢

本記事内の画像は、映画をイメージして作成したものであり、実際の映画のシーンや公式画像とは異なります。


解説動画

『ナイトサイレン/呪縛』とは?

『ナイトサイレン/呪縛』とは?

あらすじ|少女失踪と“20年後の帰還”

スロバキアとチェコの合作である映画『ナイトサイレン/呪縛』は、人里離れた村を舞台に、20年前の少女失踪事件と“魔女狩り”の恐怖を描いた異色のホラー作品です。

主人公は、かつて虐待を受けていた姉妹の姉・シャロータ。ある恐ろしい事故をきっかけに姿を消していた彼女が、20年後に突如村へ戻ってくるところから物語は始まります。

しかし、シャロータの帰還は村人たちに不安と疑念をもたらし、やがて彼女は「魔女」として迫害されていくことに──。

監督・キャスト情報と受賞歴まとめ

本作を手がけたのは、チェコスロバキア出身の新鋭女性監督テレザ・ヌボトバ。独特の詩的ビジュアルと社会批評を融合させた作風で注目を集めています。

主演を務めるのは、『プリンセス:ルーパー』のナタリア・ジェルマーニ。共演には『アウシュヴィッツ・レポート』で知られるノエル・ツツォルが名を連ねています。

さらに本作は、第75回ロカルノ国際映画祭で最高賞「金豹賞」を受賞し、シッチェス映画祭2022でも最優秀長編ヨーロッパ映画賞を獲得。芸術性と社会性を兼ね備えたホラーとして、世界的に高く評価されています。

公開日・上映時間・PG12の意味

『ナイトサイレン/呪縛』は、2024年8月2日(金)より全国の劇場で公開されました。上映時間は109分、分類はPG12となっています。

PG12とは、12歳未満の鑑賞には保護者の助言・指導が必要とされる区分。暴力的な描写や心理的に不安を感じるシーンが含まれているため、子どもと一緒に観る際には注意が必要です。

配給はホラー専門レーベルOSOREZONEと、ジャンル映画に強いエクストリームによるもの。これも“ただのホラーではない”作品である証明のひとつです。

“現代の魔女狩り”がテーマの異色ホラー

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閉鎖的な村社会が生む「疑い」と「排除」

『ナイトサイレン/呪縛』の舞台となるのは、自然に囲まれた人里離れた小さな村。そこには、外の世界から遮断された閉鎖的な価値観と、「異質な存在」を排除する暗黙のルールが根づいています。

シャロータが20年ぶりに村へ戻ってきたとき、彼女を迎えるのは再会の喜びではなく、不審のまなざし。その眼差しは、徐々に「疑い」へと変わり、やがて「魔女」というレッテルとなって彼女を追い詰めていきます。

この構図は、現代社会にも通じる“同調圧力”や“スケープゴート”の恐ろしさを象徴しています。

「女性性」と「異端視」の恐怖構造とは?

本作では、単なる村八分的な排除だけでなく、「女性」であること、「過去を語らないこと」、「独立して生きること」などが、あらゆる“異端”として扱われます。

これは歴史的な魔女狩りとも重なる構造であり、女性の身体性や自立性がしばしば「脅威」と見なされるという、古くて新しいテーマが色濃く描かれています。

シャロータの存在そのものが、「女性が自由であってはならない」という村の無意識のルールに反していたのです。

なぜシャロータは“魔女”にされたのか

シャロータが魔女扱いされる理由に、明確な「証拠」は存在しません。ではなぜ彼女は“魔女”にされたのか──その答えは、村の人々の「不安」と「恐怖」が生んだ集団心理にあります。

“過去の事件”に対して言葉を濁し、村の価値観に染まらない彼女は、村にとって“説明できない存在”。その説明のつかない存在を、最も簡単な言葉──「魔女」というレッテルで排除しようとする。

この映画が描いているのは、私たち自身の中にも潜む「他者への不寛容」であり、無意識のうちに誰かを“異端”として追い詰めてしまう心の構造なのです。

森・夏至祭・トラウマ──シンボルに込められた意味

森・夏至祭・トラウマ──シンボルに込められた意味

森は救いか、呪いか──自然と人間の境界

映画『ナイトサイレン/呪縛』において「森」は、物語の発端となる重要な舞台であり、象徴的な存在でもあります。

子ども時代、姉妹が母の虐待から逃げ込んだ森は、一見すると「逃避と自由」の場所。しかし、その奥深くで起きた事故により、森は「恐怖と記憶の迷宮」と化してしまいます。

森は自然の象徴であると同時に、人間の理屈や社会通念が通用しない“異界”。この空間が、村という閉鎖社会と対照的に描かれることで、観る者に「本当に恐ろしいのはどちらか?」という問いを投げかけてきます。

夏至祭と異教の儀式がもたらす不穏な祝祭感

本作では、村人たちが行う夏至祭が重要なモチーフとなっています。この祭りは本来、収穫や自然の恵みに感謝するものであるはずが、作中ではどこか不穏な雰囲気に包まれています。

装飾、火、踊り、そして集団心理──それらは“祝祭”という名の下に、異端者をあぶり出す儀式へと変貌していくのです。とくに異教的な儀式の演出は、『ミッドサマー』など他のフォークホラー作品を想起させつつも、より静かでじわじわとした不安を生み出しています。

観客にとって、夏至祭は「美しいが不気味」な体験となり、それが物語全体の緊張感を高めています。

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トラウマ描写と“赦し”という裏テーマ

『ナイトサイレン/呪縛』の核心には、主人公シャロータのトラウマと向き合う物語があります。20年前に起きた出来事が、彼女の身体と精神に深い影を落とし、今もなお彼女を“村の外”に留めているのです。

しかし、この映画が興味深いのは、トラウマの克服を「戦い」ではなく「赦し」によって描こうとしている点です。誰かを許すこと、そして自分自身を許すこと──それは、ホラーというジャンルの中では異例ともいえる静かな感情の波として表現されます。

だからこそ、この映画は“恐怖”で終わらず、“解放”という光も残してくれるのです。

『ナイトサイレン/呪縛』が評価された理由

『ナイトサイレン/呪縛』が評価された理由

ロカルノ&シッチェス受賞の意味とは?

本作『ナイトサイレン/呪縛』は、第75回ロカルノ国際映画祭にて最高賞である金豹賞を受賞、さらにホラーやファンタスティック映画の殿堂ともいえるシッチェス映画祭2022では最優秀長編ヨーロッパ映画賞を獲得しました。

ロカルノは芸術性の高い作品が評価される映画祭であり、ジャンル映画の枠を超えた映画的完成度深いテーマ性が認められた証です。

シッチェスでの受賞は、ホラーとしてのインパクトや演出、そして“恐怖の新たな定義”が評価された結果と言えるでしょう。

ホラーを超えた“社会的メッセージ性”

『ナイトサイレン/呪縛』が他のホラー作品と一線を画すのは、「ただ怖いだけ」で終わらない社会性の強さにあります。

村という小さな共同体がもつ排他性、女性を“魔女”と断定する構造、そして声を上げられないトラウマの存在──それらは現代社会が抱える問題と直結しています。

本作は、過去の魔女狩りを現代にアップデートすることで、観客に「私たちは本当に進歩しているのか?」という問いを投げかけます。この問いかけこそが、国際映画祭で高く評価された本質といえるでしょう。

他の魔女映画との違いと比較(『ウィッチ』『ヘレディタリー』など)

現代の魔女ホラーといえば、『ウィッチ』(2015)『ヘレディタリー/継承』(2018)などが挙げられます。これらは家族や信仰をベースに、魔女的モチーフを展開していく作品です。

それに対し『ナイトサイレン/呪縛』は、“共同体による排除”と“女性の自由への抑圧”というテーマを明確に提示しており、より社会ドキュメンタリー的視点を持って描かれています。

映像美や象徴の使い方はアートホラーとしての魅力を持ちながらも、観客の心に鋭く突き刺さる政治性と批評性を備えた作品として、確かな存在感を放っています。

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まとめ|なぜ“この悪夢”を観るべきなのか

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『ナイトサイレン/呪縛』は“今”を映す鏡

本作が描くのは、過去の魔女狩りではなく、現代社会の不寛容です。 異端者を排除し、口を閉ざした者に罪をなすりつける構造は、私たちの身の回りにも潜んでいます。

『ナイトサイレン/呪縛』は、そんな社会の歪みをホラーという形式で可視化した作品。 だからこそ、恐怖と同時に深い共感と気づきを与えてくれるのです。

静かに侵食する恐怖の本質とは

この映画にはジャンプスケアや血しぶきはほとんど登場しません。 それでも胸の奥に不穏な感覚が広がるのは、静かな侵食型ホラーだからです。

映像の奥にある“不在の恐怖”、登場人物たちの目線の奥にある“言えない感情”── それらがじわじわと心に染み入り、観終わったあとも忘れられない余韻を残します。

2024年、最も記憶に残るヨーロピアンホラーへ

2024年は『トーク・トゥ・ミー』や『エクソシスト 信じる者』など注目のホラー作品が多数登場しましたが、 『ナイトサイレン/呪縛』はその中でも特に社会性・映像美・心理的恐怖のバランスに優れた一本です。

派手さはなくとも、深い問いかけと静かな衝撃が詰まった本作は、まさに“知る人ぞ知る傑作”。 ヨーロッパから届いた、静かなる悪夢を、ぜひ体験してみてください。

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はじめまして、ホラーマンです!ホラー映画が大好きで、その魅力をみなさんにぜひ知ってもらいたいと思っています。ホラーって聞くと『怖いだけ』って思う方も多いかもしれませんが、実は心に残るメッセージやワクワクするようなアイデアがいっぱい詰まっているんですよ。 ホラー映画には、ただ驚かせるだけじゃない、深いテーマや思わず考えさせられる物語がたくさんあります。観た後もふと心に残る作品や、感動すら覚えるシーンもあって、ホラーって本当に奥が深いんです!